稀に見る面白さ、堪能しましたわい

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     修理完了の報を受け柱時計を取りに行ってきた。家で使い、のちに店で

    使い続けてきた。ゼンマイを巻いても止まってしまう症状が続いたもんで。

    ネットで探すも近所に時計屋は一軒しかない。☎番号がわからないので

    直接持ち込んだんだ。イメージ通りの店構え、好々爺然としたご夫婦、

    これなら大丈夫だろう。承知していただきおおよその期日を告げられる。

     

     修理は見てみないとわからないから費用を聞くのは野暮ってもんだ。

    アンプの修理でそれくらいのことはわかる。掛かったとしても二万円には

    ならないだろ。安いもんだ。というのも私が小学生の時、姉が勉強を

    教えてくれてたときにこの時計のカチコチ音だけが聞こえてたんだわさ。

    姉はアタマが良く、比べて勉強ができなかった私、答えがわからないと

    黙りこんじゃう当時の私、そんな私の態度に腹をたてる姉、気まずい

    沈黙の中、時計の振り子の音だけがむなしく響き続ける。そんな苦い

    思い出がこの時計にはあるからね。

     

     でね、告げられた期日に☎してみたらまだ出来ていない、なんか

    しどろもどろの対応でいささか心配になる。大丈夫だとは思うけど、

    ホントに大丈夫なのかしらとね。でもまぁ私の場合だって注文を受け

    取り掛かってみたものの予想外に時間がかかって、お客さんから催促の

    電話があれば多少はうろたえるよな、なんてことはある。決して催促の

    つもりじゃないけど、相手にしちゃ催促だと思うだろう。

     

     さらに職人さん(依頼した相手に限定)てのはお客とのやりとりに

    慣れていない感じだし、顔が見えない電話なら余計に緊張するのは

    わかる。しかも近頃とんとお目にかかれないゼンマイ式の修理となれば

    思い出しながらの作業となるはずだ。慣れていればどうってことない

    仕事でも、久しぶりとなれば自信も揺らぎ、それが対応に出る。

     現に私が今作ってるテーブルだって同じようなもんだから、御心内

    お察し申し上げるてなもんだ。

     

     ほどなくして連絡があってすぐに取りに行ったワケ。ショーケースの

    上に件の時計を置いて、修理の経緯や取り扱いの注意を教えてくれる。

    振り子を外しても勝手にカチコチしちゃうから、中の板に針を刺して

    輪ゴムをかけて一時停止。手慣れたもんだ。手際の良さに修理の確かさ

    がうかがえる。まずは一安心。

     

     行く前に代金を聞いたら、ちょっと間をおいて7千円だと言うんだ。

    そりゃ安すぎる! 分解して、故障の原因を突き止めて、部品交換や

    清掃(これが時間がかかる)、組み立て直し、動作を確認して、正確

    さを確認するために時間を置いて数回遅延をチェック、それだけの

    作業がたった7千円ってことはあるまい。

     

     職人ではない私だけど、頼まれて作り、値段を言うときいつも困る。

    相場があればそれに従えるけど、相場がわからないから適正価格の

    基準がない。これで生活してるわけでなし、経費を算出して利潤を

    プラスする経営センスもからっきし、仕事の内容も自信があるわけで

    なし、となればどうしたって価格は安きに流れるってもんだ。

     時計修理の金額を言うのに「ちょっと間があった」のは、多分

    そんなことからなんだろう。

     

     代金は一万円でけっこうと言い、その代わり領収書をくださいと

    お願いする。その代わりってのも変だけどさ。レシートでもいい?

    ちょっと口ごもった私、できれば手書きが欲しかったんだ。それを

    察して奥様が手書きを用意して、金額を書き込み、年号で引っかかる。

    今の年号がわからないんだ。照れているのがありありとわかって

    面白すぎる。やりとりが面白すぎるんだ。

     

     年号なんてどうでもいい、月日だけでいいからと言うけど、再々

    書こうと試みるも肝心の令和が思い出せない。私が教えたら今度は

    漢字がわからないときたもんだ。指で令を、和を教えてようやく

    決着がついた。すべて完了、あとは柱時計を受け取るだけとなるも

    梱包しようと袋を用意するんだ。内心袋なんかいらないと思いつつ

    用意しようとする様が面白くてなすがままで奥様と世間話。

     

     最初に用意したビニール袋が小さすぎて入らない。これでいい?

    と用意された紙袋はSEIKOマークの巨大袋。いったい何を入れたのか、

    大は小を兼ねると言うけどいくらなんでもデカすぎる。そう思ってる

    けど気遣いを無駄にするわけにはゆかない。ぶかぶかの袋に時計と

    外した振り子、おまけで商店街で配るお茶まで入れてくだすった。

     

     これがその時計、1日経って何事もなかったように動いています。

     

    面白さは日常に潜む、ナンチテ・・・・・・・・な、店主でした。

     


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    コメント
    柱時計。茫洋とした時報の音。深深と孤独感が満ちてくるようで、「頭痛の羽音に頭つかまれて 一人土間に腰掛けてた 母さんの帰りを待っていた・・」という(私の)古い歌を思い出しました。
    • toru tamanoi
    • 2020/05/20 8:38 AM
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