ネジの永井
あれは何年前だっただろう。たまに通る環七の陸橋の下に妙に目立つ看板があったのダ。
ネジの永井と大書きされていて、文字の大きさがいつも気になって・・・・・・・
でも、そうそうネジで困ることもないから訪れる機会もなかったんだ。あるとき必要に迫
られてようやく行ったわけ。だいたいのネジ屋さんは小汚い引戸を開けると、すぐにカウン
ターがあって、そこで注文するスタイルなんだけど、ここはすべてが違っていて驚いたの。
まず、入口脇にウィンドー・ディスプレイが。今日はレンチとドライバーが展示されてい
たけど、これは定期的に模様替えする。確か、最初に行ったときはスニーカーのような安全
靴がずらりと並んでいたような。うーむ、それだけでもただのネジ屋ではないことは一目瞭
然。で、中に入るとすべて開架式になっていてどんな商品でも手にとって見る事ができる。
うーむ、すごいぞ、とね。思ったわけですよ。商品がネジだから、客が手にとったネジを別
の場所に戻したりしたら、もう大変でしょ。たった一本だって間違えて渡したら信用問題だ
し、もしそのネジを使って組み立てようとしてネジ山を壊したりしたら補償問題も発生しか
ねない。だからふつうのネジ屋さんはネジを客に触らせたくないのだろう。思い過ごしかも
しれないけど、私はそう考えるタチなんだからしかたない。
商品受け渡しテーブル。客とあれこれの店主。永井っていうんだから永井さんなんだろ
う。聞いた事あるかもしれないけど、すっかり忘れてる。奥には事務所があり、その手前左
にはトイレがある。
しばらく前から店頭にポスターが
店主は合気道をやってるとのこと。うーむ、合気道とネジ、いずれもマジメということで
は共通性を感じます。対応は常にニコヤカだけど、芯は通ってるんだろう。鍛錬しとるんだ
ろう。そう言えばサンダンスさんの一人がトライアスロンをやってるけど雰囲気は似てい
る。しなやかな筋肉、むろん贅肉はないのだろう。とはいえ男の身体にゃ興味はないから
ね。あ〜そうかい、てなもんですけど。
受け渡しテーブルの下も、ご覧のとおり。店内のどこにもプラケースはあるんだ。きっと、
プラケースにはかなり精通してるんだろうなぁ。しかも、どんなちっちゃなとこにでもしっ
かりと商品説明がされているから見事なもんですよ。
横も、上にも商品がビッシリ。まったくムダな空間を寄せ付けない堅固な意思を感じる。
膨大なネジやボルトですから、重量は相当なものでしょう。棚はスチールアングルの骨組
みでしっかりしています。そして注目すべきは、ネジの棚の前に取り付けられている扉状の
薄い商品パネル。むろん、左右にコロコロ移動します。
下はアルミフラットバーがレールで、扉板下部の戸車という仕組み。右に見えるグレーの
スポンジは戸当たりのクッションでしょう。
そして上部はL金具に回転軸を取り付けたもので支えている。多分、この部分はいくつかの
既存のパーツを組み合わせたものと見た。経済性、加工性などを考慮した優れたアイデアで
はないか。このアイデアに至るまでには試行錯誤があったことは私の経験からいっても確か
なこと。ローマは一日にしてならないのでアリマス。
上部は扉パネルですが、下部もこのようになっている。この店はこと収納に関しては重層
的で、奥行きのあるアイデアが満載。この収納も奥行きは極めて薄く通路の邪魔はしない。
もう少し奥行きのある下部棚もある。2本のレールが床に固定されている。重量商品はここ
に収納されるのだろう。上記の下部棚は一本レール、こちらは二本だからね。
さらにこれ。これは比較的最近作ったんじゃないかな。木製棚にキャスター。軽量でかさ
ばる商品用でしょう。
主力商品はネジやボルトだけど、そこから派生するあらゆるジャンル(工具、研磨材、
テープ、切断&ドリル刃、ロープやボンドなど)に目配りされた商品がズラリ。これらは
きっとお客さんから問われ、ならばと次々と揃えていったのだろう。言ってみればネジを
ベースにしたセレクトショップのようなものか。しかも、永井店主は、あらゆるものの配置
を考え、隙き間なく商品で埋め尽くすのが好きなんだろうから(好きでなくちゃこうまで収
納に執心はできませんて)、鬼に金棒ネジに釘(ネジに釘は単なる語呂合わせ)。だから、
まさに、彼にとってこれを天職と呼んでもいいのかもしれない。
当たり前だけど、長いボルトもあるのんじゃ。さらにアルミアングルも。ま、こんなこと
は取り立てて紹介するほどのもんじゃない。店内を一見すれば、長いボルトなんぞ置いてな
いわけがないことは誰にでもわかることだから。
数回訪れた後にふと目にしたのがコレ
写りがよくないけど、ちっちゃなガラス壜にカラーメッキされたこれまた極小のネジが綿
に包まれてそっと封入されている。ネジ屋でありながらこんなもん作る洒落っ気に感心した
んだ。面白がっていただければ、喜んでいただければそれでけっこう、ってなもんじゃろ
う。これを見ていつかカラーメッキされたネジを使ってみたいもんだと思っちゃいるけどな
かなかね。でも、そのうちきっと注文させていただきますよ。褌(ふんどし)引き締めて
待ってらっしゃい。
今回訪れたのは、スライドレールなる金具を板に取り付けるためのネジ探し。この金具は
ドイツ製ですからネジだってもちろんドイツ製。そんじょそこらの店では相手にしてくれな
いだろうなんてことは充分考えられる。だから、私は何も考えずにネジの永井に直行するの
だ。
これがスライドレールの取り付け穴。すごいでしょ。なんでこんなに穴が並んどるんだろ
うか? 長い金具の前方と後方にこんな感じで穴が開いてる。友人に聞いたら、いろんな
メーカーの要望に応えていった結果だとか。それぞれのメーカーはこの穴の中から自社に合
う穴だけを使うわけだ。で、この穴に合うネジはというと、
これなんです。丸頭で長さは12ミリで太さは4ミリ。丸頭の高さが高いと引出しの側板を
こすっちゃうから低くなければならないし、細くなると緊結力が弱くなるし、長くなると板
を突き抜けてしまう恐れがある。ちっちゃなもんだけど重要なものなのです。
最初に対応していただいたのはいつもの若いスタッフ。若いに似合わずしっかり者なん
だ。ほとんどの用事ならこの方で済むんだけど、ちょっと込み入ったリクエストになると永
井店長に一日の長がある。今回も、最初に出してくれたネジは頭がちょっと大きかった(で
も充分使えたと思うんだけど)けど、永井店長が出してくれたものは瓜二つ。やはり年齢に
伴う経験値は数枚上だと言わずばなるまい。右がドイツ製、左が永井。
ドイツの会社は自社製品のために専用のネジも作っているらしい。例えば、
こんなもの。ずんぐりむっくりで頭はきわめて小さい。下穴を開けておいて締め付けるタ
イプ。そして頭には定番の、
いわゆるプラスネジなんだけど、さらに4本の溝が追加されている。だからねじ回しの方も
8つの角がある。つまり、4つの溝で締めるより8つの溝のほうがしっかりと締まるだろうと
いう発想。そりゃ確かに言えてる。言えてるけどな〜、そこまでやるかい。げに凄まじきゲ
ルマン魂ってなもんで。
で、結局今回のお買い上げはこれ。50本入りで500円ちょっとですから安いもんですよ。
いつも思う事なんだけど、私が買うネジはせいぜいが数百円から高くても3000円程度。ネジ
はとにかく安いからさ、これで商売が成り立っていることが不思議なんだ。たまに数本しか
買わないときもあるけど、そんなときは領収書の方が高くつくんじゃないかって心配にな
る。その領収書だって、商品数が膨大だからレシートが自動的になんて出来ない相談
だからいつも手書きです。毎日こんな領収書がワンサと溜まることだろう。それを束にし
て、片っ端から整理するんだろう。台帳に書き込んで商品の在庫を把握して、そろそろ仕入
れておかないと足りなくなりそうだぞ、なんて会話が飛び交っているんじゃないのか。きっ
とそれはたまに出て来る奥様?の担当なのか。いや、きっとそうなんだろう。仕事とはいえ
アッシなんかにゃ到底できませんもん。まったく、大袈裟ではなく神業ですよ、これは。パ
ソコン入力で整理するたって元はアナログ手書き領収書なんだからさ。レコードをCDに焼く
ようなもんで、手間は半端じゃないでしょ。それとも、なんか必殺のアイテムがあるんだろ
うか? さらに、こんな方の家の中はどうなっているのだろうか? とてつもなくキチンと
整理されているのか紺屋の白袴といった態なのか? 私の妄想は膨れ上がりジャックと豆の
木のように、天に昇るのダ。
ネジに関する事なら、空振りに終わって手ぶらで帰ったことはいまだにない! 私が希望
するもの、あるいは極めて近いものがすぐに出て来る。また、ネジ以外でも的確に近似商品
を出していただける。場合によっては相談に乗ってくれもするんだ。しかもですよ、一個で
も売ってくれるわけだから、私にとってはネジ類の最後の砦みたいなもの。言っちゃあなん
だけど東急ハンズなんか目じゃない。比較するのもきわめて失礼、論外です。そんな店なの
で、大量買いでもないし常連でもない私は訪れる時間にはそこそこ気は遣う。このテの店は
午前中は出荷で忙しいもんだ。だから、よほどでない限り午後に行く。それぐらいの常識は
わきまえていないと申し訳ないってもんです。
行ったときにちょっと立ち話。このブログを読んでるとのことを知り、思わず穴ならぬビ
スのプラケースに入ろうと思ってしまった。目の前でブログのことを話されるとどーにも恥
ずかしい心が先に立ってしまう。技術大国ドイツのことなんかにも話しは及んだけど、ネジ
で話しが盛り上がる相手なんかそうそういるはずもない。でも、私の友人T氏ならばきっと心
ゆくまでネジ談義が叶うことだろうて。もしも、永井店主がお酒をたしなむ方ならば、ある
いはウーロン茶でもけっこう・・・・・・・・・・一度お手合わせ願いたいもんだ。
神は細部に宿る、もちろんネジにも・・・・・・・・・・・・の、店主でした。
- 2013.03.29 Friday
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- 17:12
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- by factio