今年の何月だったか、畏友T野井氏からコンペの紹介があった。それがコトの始まり。彼の
会社と同じドイツのハーフェレ社主催の
学生コンペ。テーマは「KIOSK」。ん? なんだ、
なんだ・・・・・・・・キオスクってかい。オモロそうじゃんか、私の授業で告知してみんべか。
ということで一年生と二年生の30人程度に軽〜く話してみたら、手を挙げたのは2名なのさ。
やっぱりね、さっぱりね、いと少なしときたもんだ。コンペに応募することのあれこれな面白さ、
自分の実力を試してみたいという欲求、そんなことはあまり興味がないんだろう。強く参加を
呼びかけたってうまく行くはずもないのは経験でわかってる。無理に誘うようなもんでもないし、
やる気のない学生を相手にするのは疲れるからさ。授業の課題として参加するんならまだしも
(それもなかなかうまくはゆかんのだが)、授業外だから私にすれば完全なサービスだからね。
カンのイイ学生ならほんのちょっとのことでも聞き耳を立て応ずるだろう。それが女神の後ろ髪を
掴むってことだ。でも、そんな気のきいた学生はね・・・・・・・・・・・。
大人気もなくそういうふうに思っちゃうから、呼びかけはささやかなもんだ。
でね、その2名と話し合いおおよそのイメージが出来上がり、学校の工房で作り、写真に
撮り、締め切り消印当日に発送。なんせ、授業外でやらにゃあイカンので、進みが遅い遅い。
まるで闇夜の牛、横板に飴、なめくじのお散歩。で、しばらくしたらぬゎんと優秀賞を受賞
しちまってさ。学生二人は小躍りして大喜び、アタイは無言で数度頷く(そんなカッコつけて
どうするんだ)。最優秀の次、賞金も15万円もいただけちゃう! なんて太っ腹なんだ。
その授賞式とプレゼンとパーティに行ってきたわけ。場所は東京青山にあるドイツ文化会館
OAGホール。
受賞作品はこれだ。また、facebookには審査風景が紹介されていて、審査員が指差している
オレンジ色のが我々の作品なの。受賞の連絡を受けてから再度コンペの内容を確認したら
どうやら建築科の学生に向けてのことらしい。う〜む、知らなんだ。知らないことは恐ろしい
もんだ。闇夜に鉄砲が当たってしまったのかい。最優秀賞は芸大の大学院か、偏差値高いんだろう、
きっと。入選の学生も大学だ。大学だからって臆するところはないけど、なんたって4年間だし、
こちとら2年間だし、しかも当方一年生(入学して半年経つかたたぬかのど素人)だから一体
どういうこと? なんだと不思議な気持ちが湧かぬでもない。
コンペ参加が決まり最初の話し合いで指導教官として一言申し述べたと思ってくださいな。
曰く、東デ(東京デザイナー学院)には、立派な木工機械や設備があるからこれを生かさぬ
手はない。と、おおよそこれだけだ。これぐらいのことは言っていいだろう。学校だから教育の
一環としてということもあるし。実物を作るってことになれば大きなものはできやしない。
駅の売店のようなサイズは到底ムリ、せいぜいがおでんの屋台程度(それでもデカ過ぎて無理
だけど)にならざるを得ない。豆粒ほどの小さいキオスクしか作れないだろう。そんな小ちゃな
店ってあるんだろうか? 調べましょうということで、まずはしばしの探索行。
小さいってことは移動もカンタンだ。移動するには軽くなけりゃアカン、ならば材料は最軽量
の木材になるか? 桐か?? しかもカンタンに組めなければならないし、小難しい技術や知識
がなくたって、誰でも作れるものがいいに決まってる。ま、ここまでは誰が指導したって
当たり前な前提条件でしかない。2年制の専門学校だし、参加の学生はいずれも一年生だから
パソコン知識や技術なんかたかが知れとる。とてもじゃないけど大学生と肩を並べること
なんかできやしない。彼らになくてウチの学生にあるものといえば木工施設しかないでしょ。
自分たちの強味を生かして仕事を進めなくてはならないことはどの世界でも共通だろう。
そんなことから三人の共同開発はスタートした。で、調べた結果、担ぐのはどうだろうか?
と。昔むかしのその昔、街中で歩いてモノを売る商売があった。豆腐に風鈴、金魚なんてものも
売ってたし、近頃じゃ「大福」も売ってる。そんなこんなが分かってきて、そんなら大福の
代わりにお菓子なんかいいんじゃないか? 歩く駄菓子屋じゃ! 飴いらんかね〜なんてね。
江戸時代なら天秤棒でも良かったかもしれないけど、棒が長いし(電車移動が出来ない)、
重量バランスもムズカシソウ。だったら、中に入れるようにしたらどうかいな。中に入るんなら
ドーナッツ形にしてさ、三本脚を差し込んでさ、とあれよあれよとアイデアは展開してゆくわけ。
う〜む、なんてスムーズなんだ。学生二人とのチームワークは抜群。彼らとでなけりゃこんなに
自然にアイデアが伸び伸びすることなんかなかったろう。と、そのときも感じたし結果が出た
今も感じてる。
老教師と学生が話し合いながら進める、というと教師が指示を出し学生は言われた作業を
やるだけなんて思われるかもしれないけど、そんなセコいことアタイはやらんのよ。年令
経験は大差があるけど、話し合いは対等でなけりゃあきまへん。対等に意見を言い合える
間柄でなけりゃアイデアは自由奔放にノビノビしないもんだす。いくら教師が頑張った
ところで、いくらアイデアが秀逸だったとしても、最終形は魅力的なものにはならない。
そこで問題になるのは、年令経験を無視してというか乗り越えてというか、とにかく気に
しないで自由に意見を言えるかどうか。多くの学生はここでつまずいてしまうんだ。自由に
ディスカッションができない。遠慮か内気か自信のなさか、とにかく発言がなくお通夜みたい
になってしまう。居心地の悪い沈黙に支配される。こりゃマズイでっせ。発想とか能力以前の
持って生まれた資質みたいなもんだからね。対等な気持ちで話し合えないことには、なにも
進められないってことにもなる。
受賞パーティで入選の京都工芸繊維大学の学生と話したときに、そのことを尋ねたの。
あなたがたの作品は三人だけで考えたの?
そうです 誰か相談出来る先生は居なかったの?
いました なんで相談しなかったの?
相談することを考えつかなかった あぁ、やっぱり!
あんたがたもそうなのかい。誰にも相談しないで自分たちだけで考えたんだ。20代の若者の
経験や知識なんか知れとるやんけ、なんで先輩や先生の意見を参考にしないのか!! ま、
そこまで言ったわけじゃないけど、およそそんなことを言ったら、
そうですね、なんて今
気が付いた様子がありあり。東デの学生だけじゃない、大袈裟に言えば日本全国の多くの
若者は先人の知恵や経験を参考にすることそのものに気が付かないらしい。それでいい作品が
生まれるわけはない、底の浅い作品、どっかで見た事があるような作品、しか出て来ないのは
むべなるかな。あぁ、無情。関係ないけど。
昨日、会場から実物作品を持って帰ってきた。プレゼンの時に実物が欲しいっていうから
届けたのが戻ってきたんだ。提出したプレゼンペーパーはあちらのものだから戻ってはこない。
ちなみにこのペーパー三重構造になってて、扉を開くと写真がごちゃまんと並んでる代物。
他のすべての作品はパソコンで作りプリントアウトしてるから一枚の紙の表だけでしかない。
応募要項には裏を使っちゃいけない、なんてことは書いてない。なんで裏も使わないのか?
そんなことはどうでもいいんだけど。東デの作品は、この扉写真だけじゃ作品の半分しか
見る事はできないし理解度も半分。さて、これをどうやって展示するのか? と内心期待
してたんだけど、どうしようもなかったんだろう、表紙だけの展示となる。ネットでの公開も
同様だ。コンペっていうのは出題者に対して応募者の解答だからさ、真剣勝負って言えなくも
ない。作品は展示者にバトンタッチされたわけだ。作品を正しく展示できないとなれば、
展示者は作品に負けていると言われても仕方ない。知恵と工夫がない! なんとかせんかい!
と私は思う。思ってもいい立場にあるだろう。
展示者だけでなく審査員や東デに対しても同じこと。審査員は作品を正しく理解して
優秀賞にしたんだろう。一人の審査員は、箱物を作る建築(家)に対して「それでいいのか」
という根源的な問いを突きつけられたような気がしたと賛辞の言葉もいただいた。その一言
だけで充分、理解していただいたことに感謝し豊かな気持ちにさせていただいた。一方の
東デはどう考えるのか? 真っ先に考えなければならないのは集客宣伝のためにこの作品を
どう扱うのか、ということだろう。学生が生み出した成果なんだから、学内外に使い道は
山ほどある。しかも実物があるんだから。学生ホールに展示してもよし撮影し直して貼って
もいいと思うんだけど・・・・・・・一切の提案はない。せっかくの宣伝好素材を使うこと
に気が付かないんだろう。ハーフェレの展示者同様に東デの関係者も作品を正しく理解する
ことなく、負けとるんだ。授業を受け持たせていただきお給金もいただいている学校だけど、
こういうことでアタシャめげるのよ。仕事なんだからバトンタッチされた成果をどうやって
次につなげるのかは、受け取った側の力量次第です。生きもするし死にもする、それが仕事
ってもんじゃないか。
今回のようにポンッと作品が出現すると周囲に波紋が広がるもんです。その波紋の反応で
取り巻く方々の資質や視点や能力が見極められて大変オモロイ。今回の作品を正しく理解
してるのは友人T野井氏と中目黒の
レストランのオーナーO崎氏と審査員の中村拓志氏の三名
と私は見ている。この方々には感謝してもしきれない。感謝の心は井戸のように深い。私に
とってはこの三人だけでいい、きわめて満足しきっている。さらにもう一名の理解者がいる。
オーストリアはウィーン在住のクリス氏だ。受賞を知らせ、写真を送ったら即こちらに送って
ほしい、クリスマスマーケットに使いたいと返事があった。彼の奥さんが現地でおにぎり屋
を営んでいて、その関係で。うれしい提案だ。作品の到達地点にふさわしい。なんたって
現実の生活の中で作品の魅力が問われる事になるんだから。よりリアルなあれこれが楽しめる
もんね。
まったく教師生活の掉尾を飾るにふさわしい出来事だったぜい・・・・・な、店主でした。